線形代数①:行列(演算規則)

大学数学

はじめに

行列は数学、特に線形代数において中心的な役割を果たします。行列演算は、システム理論、統計学、工学など多岐にわたる分野で用いられています。この記事では、行列の基本的な演算方法として、行列の加法、スカラー乗法、行列の乗法を解説し、行列の乗法が非可換であることも説明します。

1. 行列の加法

行列の加法は、同じサイズの二つの行列に対して定義されます。それぞれの行列の同じ位置にある要素同士を足し合わせることで新しい行列が得られます。たとえば、行列\(A\)と\(B\)が以下のように与えられたとします。

$$
A = \begin{bmatrix}
a & b \\
c & d
\end{bmatrix}, \quad B = \begin{bmatrix}
w & x \\
y & z
\end{bmatrix}
$$

これらの行列の和は次のように計算されます。

$$
A + B = \begin{bmatrix}
a+w & b+x \\
c+y & d+z
\end{bmatrix}
$$

具体例

$$
A = \begin{bmatrix}
1 & 3 \\
-1 & 2
\end{bmatrix}, \quad B = \begin{bmatrix}
4 & -2 \\
5 & 0
\end{bmatrix}
$$

$$
A + B = \begin{bmatrix}
1+4 & 3-2 \\
-1+5 & 2+0
\end{bmatrix} = \begin{bmatrix}
5 & 1 \\
4 & 2
\end{bmatrix}
$$

2. スカラー倍

行列のスカラー倍は、行列の全ての要素に同じ数(スカラー)を掛けることです。例えば、スカラー\(k\)と行列\(A\)のスカラー倍は次のようになります。

$$
kA = \begin{bmatrix}
ka & kb \\
kc & kd
\end{bmatrix}
$$

具体例

$$
2A = \begin{bmatrix}
2 \times 1 & 2 \times 3 \\
2 \times -1 & 2 \times 2
\end{bmatrix} = \begin{bmatrix}
2 & 6 \\
-2 & 4
\end{bmatrix}
$$

3. 行列の乗法

行列の乗法はもう少し複雑です。行列\(A\)の列数と行列\(B\)の行数が一致する必要があります。行列\(A\)と\(B\)が次のように与えられたとします。

$$
A = \begin{bmatrix}
a & b \\
c & d
\end{bmatrix}, \quad B = \begin{bmatrix}
w & x \\
y & z
\end{bmatrix}
$$

これらの行列の積\(AB\)は次のように計算されます。

$$
AB = \begin{bmatrix}
aw+by & ax+bz \\
cw+dy & cx+dz
\end{bmatrix}
$$

具体例

$$
A = \begin{bmatrix}
1 & 2 \\
3 & 4
\end{bmatrix}, \quad B = \begin{bmatrix}
5 & 6 \\
7 & 8
\end{bmatrix}
$$

$$
AB = \begin{bmatrix}
1 \times 5 + 2 \times 7 & 1 \times 6 + 2 \times 8 \\
3 \times 5 + 4 \times 7 & 3 \times 6 + 4 \times 8
\end{bmatrix} = \begin{bmatrix}
19 & 22 \\
43 & 50
\end{bmatrix}
$$

4. 非可換性

行列の乗法においては、\(AB\)と\(BA\)が等しいとは限りません。この性質を「非可換性」と呼びます。実際、上述の行列\(A\)と\(B\)を使用して\(BA\)を計算すると、

$$
AB = \begin{bmatrix}
a & b \\
c & d
\end{bmatrix} \begin{bmatrix}
w & x \\
y & z
\end{bmatrix} = \begin{bmatrix}
aw + by & ax + bz \\
cw + dy & cx + dz
\end{bmatrix}
$$
$$
BA = \begin{bmatrix}
w & x \\
y & z
\end{bmatrix} \begin{bmatrix}
a & b \\
c & d
\end{bmatrix} = \begin{bmatrix}
wa + xc & wb + xd \\
ya + zc & yb + zd
\end{bmatrix}
$$

これを\(AB\)と比較すると、一般的には\(AB\neqBA\)となります。

具体例

$$
AB = \begin{bmatrix}
1 & 2 \\
3 & 4
\end{bmatrix} \begin{bmatrix}
5 & 6 \\
7 & 8
\end{bmatrix} = \begin{bmatrix}
1 \times 5 + 2 \times 7 & 1 \times 6 + 2 \times 8 \\
3 \times 5 + 4 \times 7 & 3 \times 6 + 4 \times 8
\end{bmatrix} = \begin{bmatrix}
19 & 22 \\
43 & 50
\end{bmatrix}
$$
$$
BA = \begin{bmatrix}
5 \times 1 + 6 \times 3 & 5 \times 2 + 6 \times 4 \\
7 \times 1 + 8 \times 3 & 7 \times 2 + 8 \times 4
\end{bmatrix} = \begin{bmatrix}
23 & 34 \\
31 & 46
\end{bmatrix}
$$

まとめ

この記事では、行列の基本的な演算規則として加法、スカラー倍、乗法を紹介しました。また、行列の乗法が非可換であることも示しました。これらの基本的な概念の理解は、線形代数を学ぶ上で非常に重要です。次回は、行列の逆行列や行列式について解説します。

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